クリーニングってサービス業なんですね。
最近はサービス業と言ってもちょっとくくり方が違うようで、純粋なるサービス業とは言わないらしいのですが、それでもやはり世間様ではクリーニング屋さんはサービス業なのです。
形のないものを売るのがサービス業。
文字通り、お客様にサービスを売るんですね。
サービス業で思いつくのがホテルマン。
以前お客様で帝国ホテルで働いていた方がいらっしゃって、そこでの仕事振りを聞いてアービス業のてっぺんだな、と思ったことがあります。
とにかく、お客様に尽くすんですね。
しかも、お客様が何か言う前に自然と動くんです。
ちゃんと前の宿泊データが残っているらしく、お勤めの会社などの情報もちゃんと知っていて、たとえばある家電メーカーのお客様だとすると、部屋の中にはそこのメーカーの製品しか置かないといいます。
また、お客様から要望が出る前に、感じて動けといわれるそうで、大変な仕事ですが、お客様にとても感謝される、と聞いています。
この話を聞いて、すごいなあと思ったんですね。
サービス業って、お客様の要望をかなえるものですから、その徹底した仕事振りを聞いて、頑張らなきゃいけないな、と思ったんです。
ところが、毎日仕事をしていると、悩む瞬間というのが必ずあります。
クリーニングはサービス業です。
お客様の要望は、服の汚れを落として、次もまた着ることが出来るようにして欲しい、と言うこと。
はっきりとこんなことは言われませんが、つまりこういうことですよね。
お客様の中には、さらに要望されるお客様もいらっしゃいます。
ハンガーを自分で持ってきたものにかけて欲しい。
肩幅の合わないハンガーで後が付くのが嫌だ、そういうお客様の要望があります。
僕らクリーニング屋さんが使っているハンガーも、色々加味しながら慎重に選んでいるんです。
それでも、サイズによっては若干合わないことがある。
こういう要望にはきちんと応えていくんですね。
少しの間預かって欲しい。
中には長期出張の方もいらっしゃって引取りにこれない方もいらっしゃいます。
そういうお客様の要望ももちろん聞きますよね。
お客様が望んでいることで、僕らが出来ることは基本なんでもやるんです。
僕らが知らないで、お客様しかわからない不便があることもあります。
こうしてくれたら便利なのに、そういうのはお客様の要望からこちらが分かる事もある。
そこから新しいサービスが生まれることもあります。
出来ることなら悩まないんですね。
悩むのは、出来ないケース、やってしまったら問題が起きるケース。
でも、お客様から要望があった場合なんです。
僕らクリーニング屋さんは、クリーニング師と言う国家資格を持っています。
きちんと勉強をして、資格試験を受けて、合格して晴れてクリーニング師を名乗っているわけです。
僕らは勉強した知識を経験を元に、お客様にクリーニングのサービスを提供しているわけです。
どうすればキレイになるか、ふわっと仕上がるか分かっています。
当然、どうすればヨレヨレになるか、服がおかしくなるかも知っているんです。
これをやったらダメですよ、というのがどこの業界でも必ずあると思うのですが、僕らクリーニング屋さんにもあるんですよね。
そのダメな事を要望されたら?どうすればいいのか?
これ、悩むんですよ。
お客様の要望なんだから、言われた事をするのがサービス業だろ!
こういう人もいますね。
いやいや、やってしまったら服がおかしくなる、クリーニング師としての責任があるからそれは出来ない。
こういう考え方もありますね。
皆さんならどっちを選びますか?
僕はね、と言うか、うちでしたら、選ぶのは後者なんです。
やったらいけないものはお客様の要望でもやりません。
それはなぜか?
クリーニングはサービス業です。
お客様の要望をかなえるために仕事をしています。
一見、無茶な要望でも、聞くのがサービス業だと思えるんですが、お客様の本当の要望って言うのは無茶な要望ではないんですよね。
お客様なりに、こうすれば服が良くなるんじゃないの?と言う判断でこうして欲しい、と言っているわけです。
でも、残念ながらお客様はクリーニングや服の事をちゃんと知っているわけではありません。
今はネットで色んな情報が入ってくるし、間違った情報を鵜呑みにしてしまっているケースもありますし。
クリーニング屋さんにクリーニングを依頼するって言う事は、その服に関して、プロの知識を総動員してきれいにして着られるようにしてください、と言うことだと思うんです。
そうなら、ダメなものはダメ、とはっきり言うのは、クリーニングを請け負った、クリーニング師の責任でもあります。
聞くのは簡単なんです。
お客様が言ったんだから、おかしくなっても仕方ないよね、そういっちゃえば簡単なこと。
でも、未来が分かっていて、黙って言う事を聞くのは、プロを名乗っちゃいけないと思うんですね。
お客様の衣類の責任を預かってないんですから。
きちんと勉強をしているからこそ、いうべき事はきちんと言わないといけないと思うんです。
こうして書くと、クリーニング屋さんが一方的に押し付けているように不便なように感じますよね。
でも、僕らはすぐに断るわけではないんですよ。
どうにしかして、その要望をかなえられないか?ダメになると分かっていても回避する方法がないか、とにかく考えるんです。
本来ならこうしちゃダメなんだけど、お客様はこうしたいと言っている。
普通にやってはダメだけど、何とかできないかな?
こんな風に考えるんですよ。
時間をもらえるときはずっと考えていますし、その場で判断をしなければいけないときでも、その一瞬で別の方法がないか?考えるんです。
考えても叶える方法がないとき、クリーニング師として、責任を持ってお断りしています。
ねえ、悩むでしょ?
それは出来ません、といった後に、ずっと頭の中をよぎるんですよね。
僕じゃなければ他の方法を思いつく人がいたかもしれない、とか。
他にやり方があったんじゃないか、そんな風にしばらく考え続けます。
やはり本来は断らない方がいいですからね。
なんとか、かなえたい、でも現状は出来ない、と言うことに責任を取れるのがプロなんだと思うんです。
こうして日々悩んでいますが、悩んだ結果、新しい道を見つけて次は出来るようになることもあります。
悩むのは、産む為の苦しみなんでしょうね。
最近は、どの業界でも、プロとして責任を果たさない所が増えていると聞きました。
プロに適切な助言をして欲しい、これもお客様の要望の一つだと思います。
かなえてくれるのが一番だけど、できないものは出来ないと言ってほしいんですよね。
ホテルマンのサービスは、お客様の日常をサポートする事。
だから、どんな事でも言う事を聞くのが彼らの仕事です。
それは間違いではない。
でも、それと僕らクリーニングを一緒には出来ない、と言うことですね。
僕らには僕らの仕事の目的がある。
一番いい形でお客様に服を返せる方法を考えるのが僕らの仕事ですから。
そこは譲っちゃいけませんよね。
最近のコメント