今、クリーニング屋さんは過去1番、売り上げが低迷しています。
コロナ禍という事もありますね。
地域差はありますが、緊急事態宣言の出ている地域などではリモートが増え、スーツやワイシャツを着る機会がぐんと減りました。
また、人流抑制という事で、不要不急のおでかけや会食をやめるなど、人と会う機会も減っています。
服って、人と会わなくなると着なくなるんですね。
しかし、これがクリーニングが利用されなくなった原因では無いんです。
原因は他にあります。
僕がクリーニング業に入ったのが今から約30年前。
その頃が業界で1番売り上げのあった頃かと思います。
約一兆円。
この時期の業界の目標は倍の2兆円にするぞ、というのが目標だったと聞いています。
売り上げを倍にするって大変です。
どうやろうとしたか?というと、カジュアル品もクリーニングに出してもらおう、としてたんですね。
で、そのために集中工場、機械化、大きな割引、ということが行われていきました。
今でこそクリーニング屋さんの店頭でよく見る3割引のポップは、この頃から始まったんです。
最初の頃はチェーン店でやっていたんですが、バブルが弾けた後で、クリーニング屋さんの売り上げが下がり始めて個人店でも割引をするようになっていきました。
この辺りからチェーン店の品質の悪さが目立ち始めます。
クリーニング代も安いので利用者も多かったというのもあるんでしょうね。
クリーニングと薄利多売は相性があまり良く無いと思うんですが、それをこなそうとすると品質が下がる。
クリーニングで品質が下がるって他の業種と少し意味合いが違うんですよ。
クリーニング事故が起きやすくなるんです。
例えば、縮む、ボタンが割れる、綺麗にならない。
着られなくなるような事も起きてました。
ご存知の方もいらっしゃるかと思いますが、クリーニングは長い間、消費生活センターの相談件数が何年にも亘りトップでした。
それだけトラブルの多い業界だったという事です。
時を同じくして、この頃にドライマークの洗える洗剤、というのが発売されました。
今までクリーニングに出すしか無いと思われていたものが家庭で洗える、これはセンセーショナルだったと思います。
年々、クリーニング業界は売り上げが下がっていき、去年は3000億を切るようになりました。
30年かけて7割の売り上げが消えたことになります。
でも、店舗数はそれほど変わってないんですよ。
つまり、純粋に利用されなくなった、という事です。
さて、やっと本題に入ります。(笑)
クリーニングが売れなくなった理由を話すと、主にこの三つの話が業界内からは出てきます。
一つは、ファストファッションが出てきたから。
安い服が出回る事で、クリーニングするよりも買い換える方がいいと思う人が増えたから。
もう一つは、洗濯機や洗剤が進化し、家庭で洗えるようになったから。
そして、最後。
チェーン店の品質の悪いクリーニングが多くなり、クリーニングが信用されなくなったから。
クリーニング屋さんは今の現状をこう分析する人が多いです。
確かにどれもこれも理由の一つにはなっていると思うんですが。
今の現状を見るとそれだけでは無いと思うんですよね。
クリーニング屋さん、甘くみてるんです。
品質が良ければクリーニングにでる、とか、今でも思っている。
クリーニングが利用されなくなった理由、まず着数が極端に減っているんです。
お客さんが持っているスーツの数が激減してる。
30年前は一人20着は持っていたんですよね。
春夏物、秋冬物、合物、そして晴れの日用の大事なスーツ。
1週間、同じスーツを全く着ないで会社に行けるほど持っていました。
この数を着まわしていたので、シーズン終わりのクリーニング一回でよかったんですね。
ところが今はというと、そんなに持ってる人はいません。
3着を一年着まわしているという人がどれだけいるか。
3着しかないと、クリーニングする時間が取れないんです。
すると、ずーっと着ていて自分が長期に休みを取れるタイミングでクリーニングに出すしか無い。
すると、服がものすごく傷んでいくんですね。
匂いもするでしょう、汚れも目立つでしょう、すると自分で洗えないか?とやる人も出てくるし、臭い消しを使うようになる。
自分だけなら気になりますが、周りも似たようなことをしているとこれがスーツの着方だと間違った認識を持つようになる。
同じスーツのお手入れの話なのに、今は昔と逆のことを言ってるんですよ。
15年前までは洗わないと服は傷む、と言ってたのに、今は洗うと服は傷む、に変わったんです。
そりゃ、洗う人が減るのも仕方ない。
でも、これがクリーニングが利用されなくなった原因ではありません。
今ね、クリーニングをするって考えがない人が増えたんですよね。
クリーニング屋さん、これに気付いてないんです。
結構な人が、クリーニングをするという選択肢が頭の中にない。
これが原因。
服があります。
汚れました。
さてどうする?となった時に、ここでいくつかの選択肢が出てくるわけですね。
自分で洗うか、クリーニングをするか。
大事なものならクリーニングするだろう、クリーニング屋さんはこう思ってしまうんです。
でも実際は違って、汚れた服をどうするか?の後は、洗濯をするか殺菌するか捨てるか、になるんですよね。
クリーニングの選択肢はそこにはないんです。
でも、クリーニング屋さんはそういう発想ができない、だからいつまで経っても頓珍漢な話をするわけですね。
おしゃれが好きな人はクリーニングをする、とか。
品質が高ければクリーニングに出る、とか。
家庭で洗って失敗をしたらクリーニングに出るでしょ、とか。
そんな話ばかりしている。
どれもこれも間違ってるんですよ。
おしゃれが好きな人、なんて言っているか?というと大事な服はクリーニングに出さない、傷むから、というんです。
自分で丁寧に押し洗いをする、というんです。
品質が高いか低いか、お客さんはもうすでにわからなくなってます。
どこのクリーニング屋さんも同じように見えて、どのお店がいいクリーニング屋さんなのか悪いクリーニング屋さんなのか、わからない。
試してみてダメだった事も経験値で積み重なって出すのが嫌になってしまった人、沢山います。
チェーン店はダメ、個人店はいい、と言いますが、その違いは消費者には分かりません。
見てわかるのはクリーニング屋さんだけです。
家庭で洗ったら失敗する?
何が失敗なんでしょう?
失敗か成功か、それはわかる人だから判断がつく話で、クリーニング屋さんから見て失敗したな、と思ってもこれくらい平気と着ている人はたくさんいます。
何がいいものか?消費者に伝えることをサボってきて、消費者が正しい判断ができるわけありません。
そう、クリーニング屋さんはサボってきたんです。
ドライマークの洗える洗剤が出た時もそう。
あの時も、やらせておけばいい、縮ませて失敗していたい思いをすれば考え直す、そんな話をしていたクリーニング屋さん、沢山いましたよね?
でも、実際は縮む事例はほとんど出てないんですよ。
なぜなら防縮剤の配合された洗剤で押し洗いをされているから。
中には失敗ももちろんありますが、圧倒的に成功事例の方が多い。
たまに持ち込まれる、失敗した商品を見て、それ見たことか、と天狗になっている裏で、縮ませず洗えたと成功事例が積み重なっていったことに気付かなかったんですよね。
でも、この成功事例は確実に品質の低下を招いていたんです。
クリーニング屋さんはもっと高い品質であらえるからここでもたかを括ったんですよね。
品質の高いものが必ず売れるわけではないんですよ。
お客さんにこの程度の品質で十分と思われたら、クリーニングの品質はいらなくなるんです。
過剰品質になってしまうわけですよ。
だから、クリーニング屋さんは自分たちの提供する品質が、お客さんにとっていかに大事か?訴えていかなければならなかった。
それをサボって、たかを括り、伝えてこなかったツケが今こうして、クリーニングをするということが頭の中から消えていく原因になったんです。
悪いのはチェーン店でもないし、ドライマークの洗える洗剤でもない。
ファストファッションでもない。
クリーニング屋さんが招いたことなんですよ。
さらに、ドライクリーニングは汗が落ちないとか言ってたのもクリーニング屋さん。
本当に落ちないなら、なんでドライクリーニングをするんでしょう?
自分たちでクリーニングの悪い話を広めてきて、今更クリーニングがでない、なんて何言ってんだか、って話ですよね。
チェーン店が悪い、ドライは汗が落ちない、そうやって同業他社を批判しているつもりが、自分たちの首を絞めたことは忘れてはいけないと思います。
今更ですが、ドライクリーニングの本当をちゃんと伝えましょう。
クリーニングの品質の必要性を伝えましょう。
長い時間をかけて失ったものを取り返すには、一時の流行では無理ですから。
このままだとクリーニングの文化が無くなってしまいますから。
10年後に服を洗うことができない、と消費者が困らないように。
僕らクリーニング屋は大事な職業です。
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